登山家の野口健が自民党から出馬するという憶測がたまに流れるが、その可能性はほとんどないだろう。身体検査に引っかかるからだ。その原因は、野口がネパールで貧困層の15歳少女と性交し、そのエピソードを自著で武勇伝のように語っているためである。

野口は自著で、ネパールで15歳のシェルパ族の娘・ラムと結婚したと書いている。15歳というところを無視しても、これは通常の結婚ではない。野口とラムは結婚前に少し会っただけで、まともな会話もしていない。著書「落ちこぼれてエベレスト」から引用すると*1
ラムは英語を話さないので、会話というものが成立しない。僕は、ラムとは従兄弟にあたるディンディに通訳を頼んだが、ラムは外国人と話すのが恥ずかしいようだった。
この数日後、(ラムをルクラ村に残し)メラピーク登頂に挑んでいた野口は、ラムの父・テンバーに打ち明ける。
「実は、僕はラムと結婚したいのです」
(中略)テンバーの返事はあっけなかった。「OK、OK」
それだけだった。僕の結婚はこうして決まった。
さらに数日後
ルクラに戻って2日後、僕とペンバー・ラムとの結婚式が執り行われた。
この結婚式の夜に
僕はラムをこっそり連れ出し、自分のロッジに連れて帰った。それが彼女との初めての夜だった。

「落ちこぼれてエベレスト」の内容

野口の著書「落ちこぼれてエベレスト」を整理するとこうなる。

・野口とラムは言葉が通じず、通訳が必要。
・結婚するまでに2人が顔を合わせたのは数日程度。
・相手の親に「結婚」したいと言ってすぐに「結婚」が決まる。
 「落ちこぼれてエベレスト」には少女の意思が尊重されたような描写はない。2017年の回想でも同様に、野口とラムの父が勝手に結婚を決めたような描写になっている*2
・ラムの家はネパールでよくある貧困家庭。従兄弟のディンディはこう言っている。
 「本当は山になんか登りたくない。ただ、山に行かなければ生活できない、だから行くんだ」
・その後、野口はすぐ日本に戻り、ラムはネパール暮らしで、ほとんど会わずに2年後に「離婚」している。

ラムの年齢
なおラムの年齢は、父親のテンバーによると「15か16」であり、戸籍もなく出生届も出されていないため、はっきりしない。15-16歳なのも父親によると「メイビー(多分)」とのことで不確実であり、実際にはもっと若い可能性もある。この歳では結婚できないので、野口とラムは法的には結婚していない。野口は2017年の対談で「15歳くらいの女の子」と語っている*2

ネパールの人身売買問題

そして重要なのは、ネパールはアジアの最貧国であり、人身売買が社会問題になっていることである。特に少女の児童買春、強制結婚、児童婚が問題になっている。

NGOの調査によると、ネパールの少女のかなりの割合が18歳未満で強制結婚、児童婚をさせられている。またユニセフの調査によると、ネパールでは2018年時点で、年間1万人ほどの少女が人身売買の被害にあっており、売春宿に売り渡されている。
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は8日、ネパールでの児童婚の問題について報告書を発表し、同国では18歳未満の少女3人に1人が結婚をしていると述べた。

 ネパールでは児童婚は違法だが、実際に罪に問われるケースはまれだ。同国政府も最近、児童婚の慣習を2020年までに根絶させるとした誓約を2030年に先送りしている。

 HRWによると、ネパールでは少女の37%、少年の約11%が18歳未満で結婚している。法律では、結婚できる年齢は20歳だ。

 その多くは強制された結婚だが、その一方で、虐待や貧困から逃れたいといった理由や、結婚相手を自ら選びたいといった理由による、自発的な児童結婚も増えていることがHRWの調査報告書で明らかになっている。

出典:「ネパール、少女の3人に1人が児童婚 HRW」AFPBB News 2016年9月9日

国連児童基金(ユニセフ)は、ネパールでは年間7000人の女性が人身売買の被害に遭っているとするが、(中略) 被害者は年間1万人以上との見方もある。

被害者の女性たちは、陸路で国境管理の緩いインドに連れて行かれ、インド全体では20万人以上のネパール人女性が売春を強要されているとされる。インドを経由して、中東などに送られるケースも少なくない。

他にも「ネパール 人身売買」などで検索すればたくさん出てくる*3

政治家としては厳しい…

先進国では児童ポルノの単純所持すら禁止されるなど、子供への性的行為がどんどん厳しく追及されるようになっているなか、もうこれは政治家としては完全にアウトである。

野口健がラムさんとの関係は純愛だった、親の同意を得ていたなどと主張しても、上記のような普通の恋愛ではありえない部分が多々あるので、野口とラムさんの真実がどうであれ、外形的には完全に「児童婚」であり、また「人身売買」「強制結婚」「買春」とどう線引きするのかも難しい。これは現代の政治家としては致命的である。

少なくともアジア最貧国で15歳の少女とセックスしたことは本人も認める事実なので、ネパールで人身売買が横行している事実と合わせて報じれば、簡単にネガキャンすることができる*4

これでは自民党からの出馬は到底無理である*5。身体検査がゆるい党(維新とか)ならもしかしたら可能かもしれないが…。あと小さい地方議会への立候補ならメディアもあまり追及しない(かもしれない)。
ちなみに野口は2016年の都知事選で自民と対立した小池百合子の応援演説に立っている。もしかしたら自民以外からの出馬を模索しているのかもしれない。

※追記
野口健が、子猫を空気銃で撃ち殺していた過去が判明した。これじゃとても政治家なんて無理だ。
野口健、子猫を空気銃で撃ち殺した過去

関連サイト





*1:「落ちこぼれてエベレスト」集英社、1999年(第1刷)より。 文庫版(第2刷、2003年2月22日)でも引用部分に修正がないことを確認。
落ちこぼれてエベレスト
文庫版の表紙

*2アルピニストとシェルパの娘との、世にも奇妙な「結婚生活」 現代ビジネス、2017年8月13日

野口: その家では、朝の水汲みは、当時15歳くらいの女の子の仕事で、甲斐甲斐しく働く様子にグッときて、山の上で、お父さんに「あなたの娘にホレちゃったかも」といったら、「そうか、じゃ、下りたら持っていけ」と。高地で意識がふわふわしている状態で、こっちは冗談のつもりでしたが、それが大問題で。

(※) 2020年9月に現代ビジネスの該当ページが見れなくなっている →WebArchiveによるキャッシュ
野口の児童婚が炎上した直後に見れなくなったので、野口側の要請で非公開になったものと思われる。ちなみにこのインタビュワーの他の記事は公開されたままで、野口へのインタビューも前編は見えるのに、問題の後編だけ見れなくなっている。

*3:参考として、売春規制が厳しい国では、合法的売春を行うために、行為の前に形式上「結婚」し、行為後に「離婚」するという地域があることを指摘しておく(イスラム圏など。ネパールでどうなのかは調査できていない)

*4:取材力のある週刊誌なら現地に飛んで、ラムさんからコメントを引き出すことも可能だろう。取材費を積めば面白いコメントが取れるかもしれない(真実がどうであれ)。

*5:過去に自民党からの出馬が検討されていると報じられたが、実際に公認された訳ではない。検討されるという時点で、その頃はまだ身体検査が甘いといえる。